八月の蒸し暑い昼下がり。窓を開け放った和室の畳の上を風が通る。い草の青い香りはすでに薄まり、表面はほどよく日に焼けている。フローリングが住宅の主流になった後も、和室は完全には消えていない。
畳は床材であると同時に、家具の配置、座り方、来客の応対、寝室と居間の切り替えといった生活の構造を規定してきた素材である。
三層構造
畳は表(おもて)、床(とこ)、縁(へり)という三層で構成される。表はい草を編んだ薄い層で、これが畳の表面となり、独特の香りと質感を生む。床は畳の本体にあたる芯で、伝統的にはわら床、現代では建材ボードや発泡材を組み合わせた建材床が一般的となった。縁は畳の長辺を補強する布で、無地から柄物まで多様な選択肢がある。
い草と熊本県
畳表の主原料となるい草は、湿地で栽培される多年草である。日本国内のい草生産は、近代以降は熊本県南部、特に八代地方に集中してきた。農林水産省の工芸農作物関連の統計では、国産い草の大部分が熊本県産であることが継続的に示されている。一方、安価な中国産畳表の輸入が進んだため、国内のい草農家は減少傾向にあり、産地の維持は継続的な課題となっている。
畳替えの周期
畳は永久に使えるものではない。一般的には、表を裏返して使う「裏返し」が三〜五年、表を新しいものに張り替える「表替え」が五〜七年、芯ごと新しくする「新調」が二十年程度を目安とされる。これらの周期は使用環境、湿度、人の往来によって変動する。畳屋は古くから町の片隅で営業し、家庭からの依頼で畳を一旦持ち帰って手入れし、数日後に届ける流れが今も続いている。
湿度管理とダニ
畳は湿気を吸い、乾燥した時に放出する性質を持つ。これが日本の高温多湿の気候に適応した素材である一方、湿気がこもるとダニとカビの発生源になりやすい。換気、定期的な乾拭き、年に一度の畳上げと床下の通風が伝統的な手入れの方法とされてきた。エアコンと除湿機の普及で家庭の湿度管理が機械化される中、畳の手入れも変化しつつある。
フローリングの普及と和室の残存
国土交通省の住宅着工統計によれば、新築住宅における和室を含む間取りは長期的に減少傾向にある。それでも、新築マンションでも一室を畳敷きにする選択肢は提示され続け、リビングの一角に置き畳を敷く家庭も少なくない。畳が完全に消えない理由は、座って寛ぐ、子どもを寝かせる、来客を通すといった用途で、フローリングとは違う機能を保ち続けているためである。
主な参照元
- 農林水産省 工芸農作物関連統計(い草)
- 国土交通省「住宅着工統計」
- 全国畳産業振興会
- 熊本県 い草・畳表振興関連資料